未読は藤井太洋の「ノー・パラドクス」とリチャード・R・スミスの「退屈の檻」だけで、残りの4作品は既読だったのでお買い得感は少なかったけれども、C・L・ムーアの「ヴィンテージ・シーズン」は新訳だったので、読み直してみるのも一考というか「退屈の檻」だけのために買っても構わないという意気込みだったので不満はまったくない。
しかし「退屈の檻」は面白かったかというと今となってはそれほど新味もなく、10分間を延々と繰り返すという趣向は、その十分間の繰り返しの中でどれだけのことができるのかという発展のさせかたは面白かったけれども、結末はそうするしかないよなあという予想の範囲でもあったので、期待値を高くしすぎてしまったのが失敗だろう。
「ノー・パラドクス」はタイトルどおり、過去に行って改変をしてもパラドックスは発生しないという設定が面白いのだが、面白さはそれだけではないところがすごい。なにしろこれでもかというくらいの設定の密度の濃さでこれだけ詰め込んでよくもまあ短編として収めてしまったものだと感心してしまう。
新訳の「ヴィンテージ・シーズン」はどうだったかというと、細かい部分を忘れてしまっていたせいもあってか最初に読んだときよりも楽しむことができた。どういう話で、結末がどうなるのかを知った上で読むことになったのでムーアの官能的な文章の部分を純粋に楽しむことができたのだ。そういう意味では二回読むと楽しむことができるのかもしれない。
残りの三作は既読なので省略したが、津原泰水の「五色の舟」を最後に持ってきたのは卑怯というか、これだけでこのアンソロジーが引き締まって、無条件におすすめしたくなる一冊になっている。
コメント