ジョン・ブラナーを読みたくなったので未読の中から『星は人類のもの連盟』を手に入れて読んでみた。
ジョン・ブラナーは日本ではあまり翻訳に恵まれていない作家で、最高傑作といわれている『Stand on Zanzibar』が未訳であることがたまに言及されることがある。しかし『テレパシスト』と『衝撃波を乗り切れ』が翻訳されていることを考えるとまだ良い方なのかもしれない。
作者経歴を調べると初期は娯楽路線だったが途中からシリアス路線に切り替わったということでロバート・シルヴァーヴァーグと似ている感じがする。しかし、実際に読んでみるとシルヴァーヴァーグよりも生真面目な印象が強い。
かといって重い作風なのかというと、そんなことはなくどちらかといえば軽い。
『星は人類のもの連盟』は人類が他の惑星に植民地を作るまでに至った未来、さらに異星人との交流もある世界の話だ。
タイトルだけみると、ちょっとロマンティックな雰囲気のある物語を想像してしまうが、実際はそんなことはない。いやロマンス的な要素は少しはあるが、そもそも「星は人類のもの連盟」というのは地球中心主義で、植民地は俺のもの、つまりドラえもんのジャイアンのような、俺の物は俺の物、お前の物も俺の物という考えの反社会的組織の組織名である。
主人公は文化交流を主とした政府機関に勤めている役員で植民地の人間が他星系の異星人を地球に連れてきたところから物語が始まる。地球と植民地との間には緊張が走っていて植民地側は地球から独立をしようと企んでいる。一方で地球側は文化的優位な立場からそれを認めようとはしない。しかし、地球側の優位性というのは恒久的なものではなくいずれ植民地側が地球と台頭あるいはそれ以上になる可能性は否定できない。
そんな中、星は人類のもの連盟という異星人排他主義の組織が暗躍していて殺人未遂事件が起こる。
舞台背景だけをみると既視感ありまくりというか過去においても現在においても現実の世界が抱えている問題をそのまま描いているという部分があって、さらには主人公は恋人との関係にウジウジと悩んだり、自分が所属している組織のいろいろなしがらみに苦労をしたりと、異星人が登場していなかったら現代の話と何一つ変わりがないといってもいいほどだ。
一連の事件の意外な真犯人とかトリックとかは今となってはそれほど目新しいものではないけれどもそつなくまとまっている。いろいろと主人公を悩ましていた問題もそれなりに良い方向に解決するし、社会が抱えている問題もなんだかんだいって良い方向へと向かっていく。さらには終盤では人類の次なる段階への進化というビジョンも展開して、重いテーマでありながら口当たりは軽くさわやかで、ジョン・ブラナーっていい人だなあと感じさせてくれる話だった。
『星は人類のもの連盟』ジョン・ブラナー

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