『百年法』山田宗樹

不老不死が実現化した世界の話なのだが、面白いのは今の延長線上にある未来の話ではなく、第二次世界大戦で六発もの原爆を落とされて無条件降伏した平行世界の日本の話というところにある。
不老不死の技術と平行世界という二つのIFを用いたことに意味があるのかというとそれほど意味はないようにも思えるが、不老不死の処置を受けたものは100年目に生きる権利を放棄、つまり死ななければいけないという法律があり、平行世界を用いることで、不老不死が過去に完成していて遠い未来ではなく近未来のレベルで物語を語ることができるという利点がある。
そのため、物語における社会は現在とそれほど変わりのない社会として描かれ、近未来とはいえども、現代の社会をほぼそのまま適用することができる。
不老不死なので、若いときにその処置を受ければ、処置を受けた時の容姿のまま生きつづけることができる。もちろん不死身ではないので事故で死ぬ場合もあるのだが、基本的には誰も死なない世界であり、もちろん子供はまれてくるけれども、年寄りはいつまでたっても現役のままで若い世代には仕事が無くなるという弊害も現れている。
百年法はその社会的な救済のための法律なのだが、物語は、最初の世代の100年が近づいてきたところから始まる。百年法の存在は知っていても何しろ自分自身に施行されるまで100年もの年月があるのだ。ましてや老いるということもなく、体力も衰えることもない。だから死に対する心構えというものはまったくない。さらには誰も死なないので死の概念さえ薄れている。
そんな社会があったとしたら、どうなるのだろうかというシミュレーションでもある。

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