表紙に惹かれて買ってみたら当たりだった。
出版社を通さない個人での電子書籍出版なので紙の書籍ではない。
大手の出版社から出ている単行本でも電子書籍のみという本も出始めているので今後はこういう形で世に出る本が多くなっていくだろう。
そうなると問題なのは目に触れにくくなるという問題だ。作者がSNSなどで宣伝してくれたとしてもそれに気が付かなければ見過ごしてしまう。
まあ、面白い本であればなんとか僕のアンテナに引っかかってくれるんじゃないかという希望にすがるしかない。
それはさておき、商業誌で発表された作品も何作が収録されているのだが、メジャーとはいえない作風ではある。しかし、一般受けする漫画を読みたければそういう漫画を探して読めばいいわけで、ちょっと変わった漫画を読みたいからこの本を読んでいるのだ。
一番気に入ったのは「偶然の顔」だ。主人公は曲がり角を曲がったところで出会い頭に自転車とぶつかり怪我をして入院してしまう。自転車に乗っていたのは女性。彼女は自分探しの旅をしている最中だった。そして主人公はお見舞いにきた彼女の顔を見て驚く。
彼女は自分と瓜二つの顔をしていたのだ。主人公は生まれつき病気がちでそういう意味では入院なれしていて、ぶつけられたことは大して気にしていないのだが、相手が自分と瓜二つであることには驚く。そして彼女は自分のドッペルゲンガーではないのだろうかと思い始める。それを聞いた主人公の母親は、だったら死ぬのは相手になってほしいと言う。
ドッペルゲンガーに会うと死ぬ。
そういう話がある。しかしドッペルゲンガーは人間なのだろうか。この話の面白いところはドッペルゲンガーが人間であるとしているところだ。もちろん彼女がドッペルゲンガーであるかどうかは定かではない。しかし、ドッペルゲンガーが人間だとしたら、どちらが死ぬことになるのだろうか。
「樹譚」はある日突然頭に木が生えてしまった男の話だ。落語の「頭山」を彷彿させるが、展開は全く異なる。木は成長していくがその高さは10cm程度の小さな木だ。やがてその木は実をつけるが、木は彼の知識を栄養として成長しているということがわかる。だから木に生った実は彼の知識が詰まっており、食べないと少しづつ彼の知識は失われていってしまう。悲劇しか待ち受けていない展開だが、ラストは静謐で暖かい。
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