乙一の小説はあまり読まないくせに中田永一の小説は読んでしまう。
今回は超能力者が主人公の短編集ということで少しひねりがあるというかSF小説だ。
瞬間移動や念動力といったメジャーな超能力もあれば、発火能力といった物騒な超能力も登場する一方で、ドラえもんのひみつ道具から想を得た能力も登場する。
表題作はドラえもんの石ころぼうしという道具と同じ能力を得た少女が主人公だ。彼女はやむを得ない事情で自分の存在を限りなく拡散させて周りの人から見えないようになる能力を手に入れた。自分の意思で制御することができるのだが、やむを得ない事情のために殆どの場合彼女は自分の存在を空気のようにしている。
瞬間移動能力を手に入れた少年も似たような感じだ。彼も醜い容姿で生まれついてしまったために、いつのまにか引きこもりとなり、そして瞬間移動能力を手に入れる。読んでいて切なくなるのだが、中田永一はそんな彼らに救いの物語を与える。
一番だ派手な能力である発火能力の物語では、なんの能力も持たない学生が主人公で、彼がひょんなことから発火能力を持った女性と関わり合うことになるのだが、能力が能力なだけに人も死ぬし終盤の展開も派手だ。しかしこの物語も切ない。
かといって超能力を持った事による悲哀という方向には向かわず、あくまで超能力はその人個人にちょっとだけ追加された能力に過ぎず、超能力とは無関係のところでの感情の揺さぶりが切なさに結びついている。
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