『痛みかたみ妬み』が売れたらしく、その結果こうして次の作品の復刊が成立した。
小泉喜美子というと、『弁護側の証人』『血の季節』が代表作で、あとは個人的には『ダイナマイト円舞曲』も入れたいところだが、どれも長編。短編に関してはどうなのか、というよりも、そもそも小泉喜美子というと僕の場合は翻訳者としての存在のほうが大きくて、なんといってもクレイグ・ライスの『大はずれ殺人事件』と『大あたり殺人事件』の翻訳者としての印象しかなかった。後はP・D・ジェイムズの『女には向かない職業』。
なので、ライスの作品をべた褒めする人なのだから、翻訳ではない小説の方もライスのような作品なのだろうと思い込んでいたのだ。そしたら、『弁護側の証人』と『血の季節』である。あらすじを読んだだけで、ライスではないのがわかる。
そんなわけなので、かなり年月が経って、というか絶版になってしまって入手するためには古書を探さなければいけない状況で、ようやく読んだ。
で、やっぱりライスじゃないよなあと思ったわけだが、それでも小泉喜美子は密かに人気があるようだ。こうして短編集まで復刊するくらいなのだから。
短編集も読んでみると、不慮の事故死をしていなかったのであればもっといろいろな作品を書いてくれたに違いないと思うとつくづく残念に思う。
解説にもあるように実現不可能なトリックでもって殺人を行う「冷たいのはお好き」は伊丹十三のエッセイに書かれていたというだけで実現可能として書いてしまうのは、ある意味凄いというか、これはこれで記憶に残る作品である。
アイラ・レヴィンの『死の接吻』への言及がある「殺さずにはいられない」は誰が殺さずにはいられないのかが反転する鮮やかさが光る短編。
ちょっとした叙述トリックめいた「犯人のお気に入り」もなかなかおもしろいし、これで終わりではなくって他の短編集も復刊してもらいたいものだ。あと、エッセイ集も。
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