『トマト・ゲーム』皆川博子

作者名を伏せたまま文章を読んで、作者名を当てるということが出来るほどの本読みではないが、作者によっての文章の違いというのはある程度わかる。
どうように、どんなに内容が面白くても文体が合わないという作家の本もあって、そういう場合は読むのに少しばかり歯がゆい思いをしながら読むことになる。
皆川博子の文章というのが僕にとっては合わない文章だ。
耽美といえばよいのだろうか。
赤江瀑の文章も合わなくって一冊か読んだけれどもそれっきりになっている。
合わないというよりも読むとそれだけでお腹がいっぱいになって、しばらくは読む気がおきないといったほうが近いかもしれない。
皆川博子の場合もそうで、過去に何冊か読んだけれども、続けざまに読みたいという気力がおきない。
この本も出てすぐに買ったけれども、読む気力がおきなくって今まで積読にしておいた。そうこうするうちに『鎖と罠 – 皆川博子傑作短篇集』なんてものが出てしまったので、先に積読だったこちらの本をとりあえず読むことにした。
この本を買った目的は、「獣舎のスキャット」が収録されているからである。
読後感最悪の短編を選ぶとベスト5くらいには入る作品だ。
途中までは姉の弟に対する複雑な思いの話だったが、終盤にそれまでのもどかしい展開が一気に加速して、実におぞましいラストに着地する。
「蜜の犬」も同様におぞましい話だ。グロテスクな描写がされるわけではない。超常現象の類もない。倒錯した感情があるだけである。
だからこそおぞましいのかもしれない。
表題作の「トマト・ゲーム」もオートバイで壁に向かって直進し、どこまで壁際までブレーキをかけずに進めることができるかといういわばチキンレースが登場する。ブレーキが間に合わなければ壁はトマトをぶちまけたような真っ赤に染まる。
だからトマト・ゲームとよばれる。しかし、トマト・ゲームが主題ではない。これもまたラストは唖然とするような奈落へと向かっていく。
驚くのはこんな小説がデビューして間もないころに書いたということだ。
またしてもお腹いっぱいになってしまった。

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