島田虎之介の久々の新作。
前作『九月十月』が出たのが2014年の11月なので約五年ぶり。
デビュー作の『ラストワルツ』から『ダニーボーイ』までは史実と虚構をうまく混じり合わせた非常に凝った作りだったけれども『九月十月』ではそれまでの作風とは異なった方向に変化していった。そしてそれがさらにどうなっていくのかを知るためにはまた五年も待たなければいけなかったのだが、うーん、そうきたか。
とある富豪の依頼をうけて、彼が数十年前に手放してしまったロボットの行末を探すことになったロボットサルベージを商売としている女性の視点で物語が始まる。時代は明確にはされていないが今よりも未来だ。
ハードボイルド調の雰囲気で進んでいくロボット探しの物語はやがてひとつの真実にたどり着く。長編かと思っていたら最初の話、いやすべての話は短編で一つ一つの話は一話完結していく。そう、デビュー作に見られたように、相互に無関係と思われる物語がやがて少しずつ繋がりをみせはじめ、一つの大きな物語へと向かっていく。その点でいえば今作はデビュー作に回帰したともいえるのだが、いや螺旋階段を上へと登ってみせたといったほうがいいのだろう。一つ一つの物語は意外なほどシンプルで、構成もシンプルだ。
その一方で絵としての完成度は恐ろしく高い。余計な線を削ぎ落としてかといって記号化するわけでもなく、それでいて未来社会の様子などは実験的で、ああこれこそ漫画だ、と言いたくなるような絵なのだ。
たぶん、これは島田虎之介版、手塚治虫の『火の鳥』なんじゃないだろうか。
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