「これが最後の食べ物だ」
干ばつで作物が全滅してしまった土地で暮らす六人家族の一家。家族揃っての食事の場で一家の主が宣言する。
作物は育たないのに庭先には一本の大きな木が生えている。食べ物がなくなったとき、その木には白い花が咲く。そして咲いた花の数だけ一夜のうちに実になるという言い伝えがあるが、老母でさえ記憶にある範囲でこの木に花が咲いたことも実がなったこともなかった。
しかしこの木に白い花が咲いていることを発見する。花は大きな実となり彼らに食べ物をもたらしてくれたのだが、それと同じくして一家の末っ子が息を引きとる。
この木は命と引換えに花を咲かせるのだろうか。
やがて、次は私の番だろうねえと老母が言う。
なんとも救いようのない展開をしていくのだが、どこかしら滑稽で必ずしも不穏ではない。続編も収録されていて一家のその後も描かれるのだが、何一つ進展はない。痩せた土地で、食べるものはこの木が実らせる実しかない。しかし、実らせるためには誰かの命が必要だ。なにかを食べるということはまさに命を食べるということで、それ故に読んでいてモヤモヤとする部分が残り続けるのだが、ここでの命は人の命で、それは人肉を食べるということと等価なのだ。
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