『GOTH』に続いて積読にしていた『失はれる物語』を読んだ。
今まで乙一の作品を敬遠していたのが嘘みたいにするすると何の障害もなく読むことができる。
電子書籍でセールされていたのでこの本を買ったのだが、巻末の初出一覧を見て疑問符が浮かんだ。どうやらこの本に収録された短編はどれもその前に一度文庫として出ていたようである。
調べてみるとその通りでライトノベルとして出ていた本の中から抜粋して集めた本がこの本だった。ということはこの本を読むぐらいならば初収録された方を読むべきというかそうしないとこの本に収録されなかった短編を読むことができない。
なんか損した気分にもなったのだが、この本にしか収録されていない短編もあるので、これはこれで良しとしよう。
ホラー作家だと思っていた乙一のイメージを覆すのが表題作だった。
といっても、設定だけ取り出せば主人公は事故で全身麻痺となり、見ることも聴くことも喋ることもできなくなってしまった男。外の世界との接点は右手の先だけで、そこだけが唯一自分の意志で動かすことと触れられていることがわかる部分という『ジョニーは戦場へ行った』を彷彿させる部分もあって、自分がそのような状態になってしまったらと考えるとホラー小説に近い。
しかし、そんな絶望的な状況の主人公からの視点の物語でありながら、絶望的な雰囲気は微塵も感じさせない。静かでそして切なくて、なんともいえない悲しい物語でありながら、読後感はそれほど悪くはない。どこか宗教的な要素さえ感じられる。
宗教的といえば「傷」もそんな感じの物語で、他者の傷を自分に移動することのできる少年の物語だ。自分に移動させた傷は再び誰かに移動させることもできるのだが、少年はひたすら他者の痛みを自分で引き受け続ける。
こちらは救いのある結末なので読後感はさらによい。
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