『君のくれるまずい飴 冬虫カイコ作品集』冬虫カイコ

女性同士の恋愛を描いた百合というジャンルがちょっとしたブームになっている。漫画もそうだが今年は小説の分野でも百合SFアンソロジーが組まれたりした。
僕はあまりそういったジャンルに思い入れも興味もないので、それほど深入りすることもなく、内容的に興味のあった作品だった場合しかそういったものを読むことがない。
この漫画は表紙だけを見ると百合っぽさがある。
だから興味を持ったわけではなく、いや確かに表紙の絵に惹かれるものがあったので読んでみたわけだが、それは表紙に描かれた三人の女の子のうち右側の女の子の顔になにか感じるものがあったからだ。
そもそもタイトルからして不穏な雰囲気が漂っている。君がくれるのは単なる飴ではなくまずい飴なのだ。
そこに恋愛感情などあるわけがない。
いや、くれるという行為だけをみれば好意はあるのかもしれない。だからこの本に収められた作品のなかにはLOVEはないけれどもLIKEはある。しかしそれさえも一方通行であり、逆方向にはLIKEすら存在しない。それは女の子の世界だから成立する、というわけでもないのだろうが、ここで描かれるのは女の子同士の世界の話だ。そこに男が介入する余地は存在しない。
様々な形の一方通行のLIKEはあくまで二人の女の子がいるということを前提とするのだが、しかし冬虫カイコはそれさえも突破する。
時として自分自身だけ、つまり他者がいない世界での自分自身に対しても一方通行の物語を見せるのだ。

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