前作の『追憶の夜想曲』の結末で、もう続きなんて書くのは困難なんじゃないのか、あるいは消化不良気味だけれども、主人公の行く末は読み手がそれぞれ勝手に考えればいいだけで、物語としてはこれで終わってしまってもかまわないよなあ、と思うくらいの終わり方をした<御子柴礼司>シリーズの三作目が出た。
そもそも主人公、御子柴礼司が、今は凄腕の弁護士だけれども少年時代に酒鬼薔薇事件を彷彿させるような連続殺人を行い、少年院に入った経験がある人物なのだ。彼が更生したのかどうかははっきりとしたことは描かれない。彼の初登場となる『贖罪の奏鳴曲』では登場するなりいきなり死体遺棄を行おうとしているのである。
少年院を出てからは過去を隠し、名前を変え、御子柴礼司として弁護士という職業を営んでいるのだが、勝つためであればどんなことでもする。
前作では隠していた彼の過去が社会に明らかとされ、裁判では勝つことができたがそれと引き換えにいわば社会的に抹殺されてしまう。
そんな後の話である。
弁護士としての依頼は激減してしまったが、もともと勝率九割を超える弁護士である。彼が殺人鬼だったとしても構わない人たちもいてようするに暴力団関係なのだが、そういった方面での弁護を受けて糊口をしのいでいる。
そんなある時、少年院時代の恩師が殺人犯として捕まってしまったことを知る。本人自身も犯行と殺意を認めている。
その恩師を助けるというのが今回の話だ。
本人自身が罰を与えて欲しいという状況で果たして無罪を勝ち取ることが可能なのか。
しかし今回はそういった部分に焦点があるわけではない。
罪を償うということと罪を償いたいと思う人に対して御子柴礼司は無力に等しいという部分だ。
少しずつ人間らしさを見せていく主人公の次の話が楽しみである。
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