主人公が過去に戻り、過去に起こった事件を未然に防ぐことによって現在を変えようという点では、三部けいの『僕だけがいない街』を彷彿させる。
しかし『僕だけがいない街』では過去に戻ることのできるのは自分の意思とは無関係とはいえども主人公のみだったのに対して『テセウスの船』では主人公の他に一連の事件の犯人も過去に戻ることができていたというのは驚きだった。
さすがにちょっと都合が良すぎるというか、そもそも主人公が過去に戻るのもその理由はあきらかになっていないので余計にそう感じてしまう部分もある。
その点で『僕だけがいない街』では主人公は昔から過去に戻るということを体験していてその理由らしきものも説明されている。
とはいえども、そこは時の流れの中において大いなるなにかの存在がそうさせているものだというふうに解釈しておくことにして、そもそも過去に戻るということがこの物語の主眼ではなく、タイトルにもあるようにテセウスの船に対する部分が主眼であるとすれば、この巻では主人公が最初の歴史、というか一番自分が取り戻したいと思っている、かどうかはわからないのだが、それでも自分の中で一番の思い出となっている時間軸に対しての決別ともいえる部分が描かれているのはその現れなのだろうと思う。
ということでいよいよ物語が着地しようとしている。どんでん返しなどは必要ないのできれいに着地してほしい。
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