『屍人荘の殺人』今村昌弘

評判に違わぬ面白さではあったものの、手放しで傑作だったかというと微妙なところで、面白いけれども疑問に思う部分が多少あるというところだ。
今回はわりとネタバレ気味に書いてしまう。もっともネタバレといってもこの作品における衝撃的な要素に関してなのだが、じゃあその衝撃的な要素を事前に知ったうえで読んだ場合、つまらなくなるかといえばそんなことはない。そもそも僕自身も事前に知っていたので、はっきりとそう言える。
読み始めてみると読み心地はわりと軽く、そもそもクローズドサークルになる原因がゾンビという、なんでもありな設定から想像できるようにライトノベルに近い読み心地だ。もちろんそれが悪いというわけではなく、この設定にリアルさを出すためにはこうするしかないだろう。
しかしその一方で、そういった状況でなぜ殺人を犯すのかという部分に対しての説得力をいかに与えるかというのはなかなか難しい問題で、ぱっと思いつくのはこのままだと自分が殺す前にゾンビによって殺されてしまうのでその前に自分が殺すという動機だ。しかし、それでもそこまでするかという疑問も残る。
というわけで、面白かったのだが、犯人の犯行心理に関していえば、言われてみればそうかもしれないけれども、そこまでするか、という疑問が残る。とくに二番目の殺人に関していえば、その犯行方法とそれが完了するまでの時間の問題を考えると、無理がありすぎる気もするのだが、しかし、ゾンビに襲われている真っ最中という極限状態のなかであるのだから、そうであってもおかしくはないという理屈も通用するかもしれない。最初の殺人の真相が面白かったこともあって落差を感じてしまう部分もある。
しかし一つだけ大きな不満は、冒頭から登場する探偵役である人物が物語半ばで退場してしまうことだ。もう少し生き延びらせてせめて二人の探偵による謎解き合戦に持ち込んでほしかった。

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