ふとしたきっかけで男女二人の精神が入れ替わってしまった。という設定だけみればそれほど珍しくはない物語なのだが、かなりパターンを外してきている。
そもそも入れ替わる男女というのが、17歳の女子高生と38歳の中年男性と年齢差がありすぎる。
さらにいえば物語は入れ替わってから一年以上経過したところから始まる。
入れ替わる前に二人がどういう関係だったのか、入れ替わった当初はどうだったのか、などといった部分はまったくといっていいほど描かれない。
主人公たちにとって入れ替わりはすでに起こってしまったことで、そして様々な苦しみはあったのだろうけれども、最初の苦しみや悩みは乗り越えたところからこの物語は始まる。
女子高生になってしまった中年男性は女子高生の容姿が良いことから、ゲームに例えるならば強い状態でニューゲームを始めた状態であるとして、読者モデルとしてのし上がっていく。一方、さえない中年男性になってしまった女子高生はというと、かろうじて日々の生活ができる程度の底辺の生活をしている。なにしろ17年だけの知識しかない状態で一人で生きていかなければいけないのだ。そしてその間二人の交流はなかったのだが一年ほどして二人は再び相まみえることとなる。
強くてニューゲームを開始した中年男性のほうはといえば読者モデルとしては順調でありながら、自分が自分でないこと、自分という内面の存在と女子高生という外面の、いうなれば他人の肉体のなかで、自分と他者という存在を意識せざるえを得なくなっていく。
一方、中年男性となってしまった女子高生はというと中年男性が働いている編集部に彼の口利きで就職することができ、徐々に中年男性として世界とうまく共存していき始める。
その中で、二人は自分が経験してこなかったはずの相手の過去を自分の過去として認識し始める。
今までの入れ替わりの物語では触れられることのなかった、記憶や意識が何に依存しているのだろうかという問題に触れ始めるのである。もちろんこの物語はSFではないのだが、しかしSF的な問題に触れて、そして二人は肉体の性に影響されていく。つまり、中年男性は女子高生の肉体の影響を受け始め、男性と肉体関係を結び、そして妊娠する。
意識が肉体からのフィードバック器官でしかないとするのであれば、女子高生の肉体に宿ってしまった中年男性が女性化していくというのは納得できる話で、SFとして描かれているのではないけれども良質なSFを読んだときと同じような衝撃を与えてくれる。
コメント