『テセウスの船10』東元俊哉

正直言えば前巻で主人公の他にもうひとり、未来から過去にやってきさせてしまったことで、果たしてこの物語はきれいに収束するのだろうかという不安があった。
そもそも主人公自身にしてからになぜ過去に戻ることができたのかという説明はされない。
ついつい比較してしまうのだが三部けいの『僕だけがいない街』では主人公が過去に戻る理由というのが説明されており、まがなりにもそれが物語としての必然性があったのだ。
とはいえども、全くの説明なしでもそれが主人公のみに起こる出来事であるのならば許容範囲ともいえる。しかし前巻でもうひとり、すべての事件の真犯人も過去に戻ってしまった。
などと最終巻を読むまでは不安があったが、読み終えてみるとそんなものは杞憂にすぎなかった。
もちろん、ご都合主義的な部分もあるとはいえども、この結末にするのであれば真犯人を過去に戻らさせる必要がある。
そして犯人の動機が明らかになることによってそれはより強固となっていく。
タイムトリップ物における緻密さはないものの、一連の物語としてはきれいに着地した。
ただ、タイトルにもある「テセウスの船」の問題が、登場人物たちによる問題提起ではなく物語を語る作者の視点での問題提起であったために、タイトルの意味を理解するのに物語が終わったあとに少し考える必要がある。まあそこまでの意図があってのことでもあるのだろうけれど。

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