『暗殺者グレイマン』マーク・グリーニー

どことなく、ロバート・ラドラムの『暗殺者』を彷彿させる内容だが、ラドラムの主人公、ジェイソン・ボーンは記憶喪失であり、読者も彼の正体が何者なのかわからないまま物語が進むのに対して、グレイマンことコート・ジェントリーの正体は最初からわかっていて、しかも彼が元CIAの暗殺専門の特殊工作員で、何かしらの理由でCIAを首になりさらにはCIAから発見次第殺害しろという扱いを受けているということも判明する。そのうえ、凄腕の暗殺者でありながら非情にはなり切れず、傷ついている人間がいれば助けようとするし、ある種の騎士道精神をもっている人物であることもすぐにわかる。で、それが彼自身の欠点であり、後々に苦労を背負い込む羽目となる。
なぜCIAから追われる身となったのかというのは謎のままなのだが、今回の話ではそんなものは解き明かされる必要はまったくない。彼が任務で暗殺した男の兄が復讐のために彼を殺そうとする。そして世界各国から優秀な暗殺チームが集められて、彼に襲い掛かるのである。
物語における経過時間が48時間と短い時間であること、さらに彼を暗殺しようとする人数が多いこともあってアクションシーンが多い。凄腕の暗殺者でありながら、特にグレイマン=人目につかない男という異名を持ちながらもいとも簡単に敵に見つかってしまうのはご愛敬といったところだが、孤軍奮闘の中、とにかく傷ついていく。そして作中内の時間経過が時間経過なので、傷が回復しないうちに次の戦いとなる。最後の戦いなどはほとんど死んでいるような状態に等しく、凄腕よいうよりも運が良かっただけという感じだ。しかし、それが面白い。
下手にリアリティを求めてつまらなくなってしまうよりも、そんなものは表層レベルだけにしておいて、これでもかというくらいに面白くなる要素を詰め込んで、楽しませてくれる物語を久しぶりに読んだ。

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