『近所の最果て 澤江ポンプ短編集』澤江ポンプ

この本を読んで澤江ポンプには三回驚かされた。
まず男性だったこと。これはひとえに僕のそそっかしさから来たものだが、澤江という名前から勝手に女性だと思っていたのだ。
続いて新人だと思っていたらもう十年近く漫画を描いていたということ。これも僕のそそっかしさという点もあるが、澤江ポンプという漫画家の存在を知ったのは『パンダ探偵社』が単行本化されたことで知ったからで、その時点で過去の作品など調べなかったのだ。
そして最後は、作者が直腸がんで闘病中だったということ。もちろん闘病中ということは知っていた。連載中だった『パンダ探偵社』を中断するくらいなのでそれ相応の病気だということもわかってはいたが、それでも具体的な病名を知ると知らないとでは大きく違う。より現実性を帯びてしまう。
と漫画とは違う部分、作者自身に関することで驚かされたのだが、この本に収められた漫画にも驚かされた。
バラエティ豊かで、ああ、これだけの蓄積があるから『パンダ探偵社』があるのかと思った。
ベストは最後に収められた「サイコンクエスト」になるのだろうけれども、一ページ漫画も捨てがたいし、なによりも巻頭の「ハダカヨメ」が面白い。一人っきりになると裸族となる妻。しかし夫はそんなことは知らない。妻も夫にはそのことを隠していて、夫が帰宅する時間が近づいてくると服を着て、何事もなかったかのように夫婦で過ごす。裸族になるからといって特別なにかとんでもないことが起こるわけでもない。あくまでどこにでもある日常にひっそりと裸族を持ち込みながらもなにも不思議なことも起こらないし、大事件も起こらない。起こるのは小さな事件だけで、それを短編にまとめ上げるというのはものすごい力技のように見えるんだけれども、平然とそこに存在している。
四回目の驚きは良い驚きであることを祈ります。

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