「おれたちはただ、人生模様と生活の表裏と、人間の縮図を見て来ただけなんだ。そして得られたのは、死を予期していない人間がいかに劇的な立場にいるかという知識にすぎない」
運転手を含めて二十七人の人間が乗ったバスが崖から転落し二十七名全員が死亡するという事故が起こる。
しかし運転手の運転ミスによる事故だと思われたこの事件だが、フロントガラスが真っ白にひび割れており、なおかつ運転手の頭から散弾銃と思われる玉が見つかったことから、何者かが運転中のバスに向かって散弾銃をうち、真っ白になったフロントガラスに視界を奪われた結果による転落と断定される。
銃を打ったのは単なるいたずらなのか、それともバスに乗っていた誰かを殺すためだったのか。
運悪くこのバスに乗っていたため妻と子供を失った刑事がこの事件を追う。
事件に関係した警察官がその事件の調査を追うというのは許可されていないことだと思っていたのだが、この本が書かれた当時はそうでもなかったのかどうかはさておいて、二十七人の誰を殺そうとしたのかという謎を解くために二十七人がどんな生活をしていたのか事件直前までどんな行動をしていたのかということをひたすら調べ続ける、というのは発想の妙でもある。
バス内での大量殺人事件というとマイ・シューヴァル& ペール・ヴァールーの『笑う警官』を思い出すのだが、あちらは殺されるのは九人なので桁違いでもある。
笹沢左保のすごいところはこの二十七人、正確には子供や偶然乗り合わせた老婆、主人公の妻子が除外されるので二十人と少しとなるのだが、笹沢左保はこの二十数人の人生を浮き彫りにさせていく。
よくもまあこれだけの人物像を作り上げたものだと感心するしかないのだが、その一方でこんなにもドラマティックな人生を抱えた二十七人の人間が一台のバスに乗り合わせたというのは無理がありすぎる気もするが、しかしここまで描かれたらそんな無理も引っ込んでしまう。
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