読んでいたつもりになっていたけれども読んでいなかった。
というか買ってすらいなかった。
一ノ関圭はものすごく寡作な漫画家で、そもそも僕がその存在を知ったのも2010年のことで、その時点で最新作である『鼻紙写楽』も連載が終わっていた、というか中断していたのでネット上でたまたま一ノ関圭について書いてある記事を読まなければその存在を知るのはもっと後だっただろう。
漫画家としてデビューしたのが1975年と今から44年も前でありながらこれまでに出た単行本は3冊。もっとも漫画家としての活動だけではなくイラストも描いていたけれども、それでも少ない。
そんなわけで『茶箱広重』と『鼻紙写楽』は買ったけれども、あわてて読まなくてもいいかと『らんぷの下』は買っていなかった。
で、今回『一ノ関圭読本』が出て、読みなおそうと思ったところでよくやく気がついたのだった。
幸いなことに電子書籍版が出ていたので苦労することなく手にすることができたが、同時に、これを読んでしまうともうほかに読むものがなくなってしまうなあという思いもあった。
が、ここで積ん読にしてしまうのもなんだかなあということで読み始めたのだが、いや面白かった。多分若い頃に読んでいたらこの面白さが理解できたのだろうかという思いもあるけれども、若い頃でも面白く読むことができただろう。というのも絵のうまさもそうだが、物語の運び方がうまいのだ。どこかに謎が存在していてその謎が物語をすすめるための駆動となり、もちろんその謎は最後にきれいに解かれる。デビュー作の「らんぷの下」においても一枚の絵が謎となり、もっともその謎はある程度予測はつくのだが、あからさまなミステリとして描かれているわけではないので読み進めていって最後にちょっとした驚きをもたらすという形になっている。
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