ロックバンドでボーカルがピアノを弾きながら歌うというのはそれほど珍しくはないかもしれないが、僕がブルース・ホーンズビー&ザ・レインジの『The Way It Is』を初めて聞いた時は他にそういうグループがいなかったせいもあって、ちょっと衝撃的でもあった。というのも僕の中ではロックとピアノが結びついていなかったせいもあるからだ。
ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジはヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの弟分という触れ込みでこの曲でデビューした。ヒューイ・ルイスは嫌いではなかったけど、僕にとってはちょっと明るすぎた。その当時の一番新しかったアルバムのタイトルも『Sports』で、インドア派の僕には合わないタイトルだったし。
明るくって健全な雰囲気のあるヒューイ・ルイスに比べるとブルース・ホーンズビーの曲は少し憂いがあって僕には心地よく感じられた。
けれどもその後、僕がブルース・ホーンズビー&レインジの次のアルバムを買うことはなかった。海外のミュージシャンは毎年定期的にアルバムを出すわけではないし、当時はインターネットもなかったのでこまめに情報を追いかけることをしないかぎり、地方に住んでいると最新アルバムが出たことすら気づかずに終わってしまうということと、僕は基本的に作品単位でしか物事を捉えない、つまり作者単位で捉えない人間だからというせいもある。なのでブルース・ホーンズビー&ザ・レインジの次のアルバムが出たとしても、さらにそれを知ったとしても、そのアルバムが気に入らなければ買うということはしない。
でもその数年後、ブルース・ホーンズビーの新しいアルバムを買うこととなる。多分、なんとなくまたブルース・ホーンズビーの曲を聞きたくなってみたからかもしれない。
アルバム『Harbor Lights』の最初の曲は1分ちかいイントロが続く。ところどころで『The Way It Is』を彷彿させるメロディが差し込まれたりしてやがてブルース・ホーンズビーのボーカルが登場する。ちょっと期待はずれな部分もあるけれども悪くはない。で、次の曲……。次の曲……。聞けば聞くほどこんなはずではなかったという気持ちになる。ライナーノーツを読むと、このアルバムはブルース・ホーンズビーのソロ・アルバムで、ブルース・ホーンズビーが好きなミュージシャンを自分のスタジオに呼んで自分のやりたい音楽をやった結果がこのアルバムだった。ブルース・ホーンズビーのピアノも歌声も変わりはないのに『The Way It Is』のころのような曲は殆どない。どちらかといえばジャズの世界である。
今はジャズは好きだといえるくらいにはなったのだけれども、あの当時はジャズが好きではなかったので無理もない。
久しぶりに『Harbor Lights』を引っ張りだしてきて聞いてみようと思った。今ならばこのアルバムの良さがわかるかもしれない。
けれどもしっくりとこない。長いことかかってジャズは好きだといえるくらいになったけど、それでも僕はジャズの本質的な部分をで楽しむということができないでいる。
それは僕が音痴でリズム感に欠けているせいなのかもしれない。
それはまるで、決して振り向いてはくれない人に対してひたすら好きだと言い続けているのとおなじかもしれないのだが、いつか、ジャズの楽しさの世界へとたどり着きたいと思っている。
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