経過報告4

9/8

朝から妻はネットを検索し、なにやらメモを取っている。思考盗聴に関してと、電磁波についてだ。
妻は、階下の住人が自分に電磁波を浴びさせているから声が聞こえていると思い込んでいる。
早く支度しないと病院で診てもらえなくなるよと、支度を急がせるが、
「そんなことどうでもいい。第三者に知らせておかないと私も○さんも抹殺されてしまう。どうしよう。私たちだけじゃ殺されちゃう」
泣き出す妻に私は、大丈夫だといい続け、きつく抱きしめてあげることしかできなかった。
しばらくして落ち着きを取り戻した妻は、最初に健康診断をするために内科へ。
妻が診断受けている最中に、精神保健センターへ電話をかけるのだが、話中でつながらない。
電話すればすぐにつながると思った自分が馬鹿だった。昨日のうちに電話しておけばよかった、誰だ、こんなに長い時間電話をかけているやつは、ああ、でもたくさんの人が悩んでいるのだから仕方ないよなあ、でも時間が無い、妻の診断が終わるまでに何とかしておかないと。早くつながれ、早くつながれ、早くつながれ。
と必死の思いでリダイヤルを繰り返し、携帯を充電しておけばよかったと残りのバッテリー量を心配しつつ、ようやくつながった。
妻の状態を説明したところ、やはり統合失調症の可能性が高いから病院で診てもらった方がいいと、何軒か病院の電話番号を教えてもらう。
妻が行きたがらないのですがどうしたらいいですかという問いには、何とかするしかないですねという非情な回答。
教えてもらった病院に電話をかけまくるも、受付は終わってしまったという返事ばかりで、4軒目にしてようやく診てもらえる病院にたどり着く。
病院への説得に関しては、私の表情が怖かったのか、何かしら拒否できないオーラのようなものが漂っていたのか、確かにそんなものが出ていたとしてもおかしくないほど、私は必死だったのはたしかだったわけで、わりと素直に病院へ行ってくれる。
診ていただいたのは年配の女性の先生で、妻もひとまずは安心したらしい。
話しづらい妻の代わりに、あまりでしゃばり過ぎないように気をつけながらできるだけ客観的に妻の状態を説明する。ときおり妻に話すように促し、一方的にならないように注意する。
そして盗聴器や盗撮カメラの話までは順調にきたが、そこで戸惑う。
一瞬躊躇したのち、思考盗聴にの件について話す。
その話はしないでという妻の言葉を無視し、できるだけ客観的に話す。
「妄想が入っていますね」
あっさりと先生が言う。
先生の、妻の言うことにはうなずき、決して否定せず、話を聞きだす手腕に関しては、自分も覚えなければいけないと観察していたのだが、意表をつかれた。
リスペリドンを1mg、寝る前に飲んでください、という処方を受ける。
とりあえず今のところは働きっぱなしの脳を休めすために睡眠をとらせなければいけないのだそうだ。
一週間分の薬をもらい、少し希望が見える。
しかし、妻は精神科の病院へ連れて行った私を許してはくれない。許してくれないというよりも、自分のことを信じてくれない私にショックを受けているようだ。
妻の話すことを否定せず、頭がおかしいなどとは思ってはいないことを説明し、
「可能性があるから調べてもらっただけで、40度の熱があるときは、風邪とインフルエンザの両方の可能性を調べるだろう?逆の立場だったら同じことをするじゃないかい。」と納得させる。
「○さんがそうなったら、私は病院になど連れて行くことなんかしない。黙って否定しないで話を聞いてあげる」妻はそういった。
午後は妻が、たまに行っていた海岸へ行く。
妻はここで、自分一人で頭の中を駆け巡っている悪意の声と戦っていたのだ。
ひたすら妻の話を聞き続ける。平日なのに二人っきりでこうしていられることに少しは安心しているようだった。
夕飯は二人でラーメン店へ。
ラーメンは体に悪いからとあまり食べない妻には珍しいことだったけれども、たまたま入った店のラーメンは予想以上においしかった。
妻にとっての元凶が階下の住人である以上、そこから離れた場所にいることが妻の容態の改善につながるはずだと考え、来週まで妻を妻の実家へ帰らせることにする。

コメント

  1. こんにちは。
    大変でしたね。
    奥様実家に帰って回復されるといいですね。
    これからも頑張ってください。

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