ピアズ・アンソニイといえば、<魔法の国ザンス>シリーズの人であって、SF作家でもあるのにSF小説の方はほとんど翻訳されなくって、<ザンス>シリーズばかり翻訳されて、お前は<ザンス>シリーズだけ書いていればいいんだとでもいわんばかりの翻訳状況なんだけれども、実際のところSF作家としての実力はそれほどでもないのかも知れないと思いそうにもなる。
私がピアズ・アンソニイの名前を知ったとき、唯一翻訳された彼のSF小説は『縄の戦士』だけだった。題名からして変な題名なので読んでみたいなあと思っていたのだが、何しろ銀背だったので入手困難。それから何年も経ち、何故か突然<ザンス>シリーズの合間にひょっこりと翻訳された<クラスター・サーガ>は第一部の題名が『キルリアンの戦士』だったので、『縄の戦士』に関連する話なのかと思っていたら全然無関係のシリーズでがっかりした記憶がある。
まあ気長に待ち続ければそのうちSF小説のほうも翻訳されるだろうと思い続けて数十年。『トータル・リコール』のノベライズは出たけれども、未だにピアズ・アンソニイは<ザンス>の人である。
というわけでしびれをきらして『縄の戦士』を読んでみた。
「ソル」と名乗る二人の男が宿屋で出合うところから物語は始まる。で、個人的には同名のままでも構わないと思うのだが、何故か二人は自分の名を賭けて試合をすることとなる。無論勝負はついて片方は「ソス」と改名させられるのだが、、勝った方はあちらこちらの部族をまとめ上げて帝国を作ろうと思っているからオレの参謀になれと「ソス」に言う。
普通ならば腕力があり、そして帝国を作ろうなどという野望、いや、目的を持っている方が主人公のはずなのだが、この物語の主人公は、負けて「ソス」と名乗らなければいけなくなった方なのである。
このあたりで、舞台となる場所が、核戦争で人類滅亡寸前までいった後かろうじて復興しつつある未来のアメリカであることがわかるのだが、これで「ソル」の野望の元、偉大なるアメリカ復興に向けて軍師「ソス」の大活躍、という話になるのかといえば全く違う方向へと突き進んでいく。
強いて言えば、キース・ロバーツの『パヴァーヌ』のネガティブバージョンといったところか。
コメント