- 著 こうの 史代
- 販売元/出版社 双葉社
- 発売日 2009-04-28
こうの史代がふたたび第二次世界大戦中の広島を舞台とした物語を書き始めたとき、原爆というものをいったいどのように処理してそしてどんな地点へと物語を着地させるのだろうかもの凄く気になったわけだけれども、とうとうそれを確かめることが出来た。
上巻のプロローグ的な物語においてこうの史代が異形の世界の者を登場させ、ある意味ファンタジー的な始まりをした時、違和感を感じていたのだが、下巻を読んで何故そのような始まり方をしたのかわかった瞬間、あらためてこうの史代の凄さを実感したのである。
普通ならば物語のクライマックスを原爆に持ってくるだろうところを、こうの史代はその手前の時点でクライマックスを起こし、世界レベルでは小さな悲しみだが、個人レベルでは大きな悲しみを主人公に与え、そして原爆や終戦の悲しみをも単なる出来事とし、相対化させて同等の痛みとして描く。驚くことに終戦でさえ悲しみとして描くのだ。
さらに凄いのは、背景の描き方だ。主人公が失ったことに気付いた瞬間、世界が歪んでいることに気が付いた瞬間、主人公の世界は歪み、それ以降の背景は歪んだままなのである。
そして歪んだ世界の中で、少しずつ主人公が失った物が持っていた絵の力が世界を修復し続けていくのだ。その有様は超絶技巧としか言いようがないのだが、修復された世界は涙が出るほど美しいのである。
史実通りに描きながら、同時に有り得たかもしれないパラレルな改変世界を描き、そして最後はいつも通りの笑いで終わらせるのだから、まったくもって凄いとしか言いようがない。
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