地底都市の圧制者

地底都市の圧制者 (ハヤカワ文庫 SF 239)

  •  K・H・シェール
  • 販売元/出版社 早川書房
  • 発売日 1977-05

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いまどき、K・H・シェールの本を読むくらいならばもっと他に読むべき本がたくさんあるだろう、という気はする。
しかしまあ、<ペリー・ローダン>シリーズの発起人の一人でもあるし、ハヤカワSF文庫だけではなく東京創元社からも何冊か文庫が出ている。
最近はドイツSFが紹介されなくなって、たまに翻訳されれば『イエスのビデオ』とか『深海のYrr』とか、SFのレーベルではないところから出る始末。まあ両方とも読んでないのでSFっぽいだけでSFとはいえない話なのかもしれないけれども、ドイツSFってのはローダンだけで全てなのかっていいたくもなる。とはいうもののローダンシリーズは一冊しか読んでいないので、文句を言う前にローダンを読めといわれそうなんだけれども、今さらあんな長いシリーズ読めるか。
それにしてもローダンシリーズって毎月出ているけれども利益が出ているのだろうか。ひょっとして福島正実の呪いでもかけられていて出し続けていないとなにか不吉なことでも起こるのだろうかとも思ってしまう。無論そんなこと本気にしているわけじゃないけれども。そういえば斉藤伯好氏が何故スタートレックシリーズを翻訳し続けているのかと聞かれたときに、福島正実が止めてもいいよといってくれないからだと答えたエピソードを思い出した。もちろんこのとき福島正実は故人である。斉藤伯好氏の人柄が現れたいい話だなあ。
というわけで何となくドイツの人たちに申し訳ない気がしたので『地底都市の圧制者』を読んでみることにしたのである。
舞台はとある植民惑星。謎の攻撃を受けて人類はたった二人になってしまったとというのが基本設定。しかも生き残ったのは青年とおじいさんだ。どう見ても絶滅へ一直線の状況なんだけれども、彼らの他にミュータントが数百人ほどいる。この惑星は放射能まみれになっており、このミュータントは放射能によって突然変異した人類の子孫という設定。そしてこの物語はミュータントの女性と主人公の青年との会話から始まるのだが、その会話は洒落ている。ミュータントの方は老人を殺したがっているのである。無論、主人公は必死で止めようとする。
ミュータントにとっては人類が滅びようと全然関係ないのである。人類が生かされているのは役に立つからという理由だけという危機的状況にもう耐えきれない老人と主人公は、謎の攻撃から生き延びた宇宙空港目指し、そこから宇宙船に乗ってこの星を脱出しようとする。
で、その途中で地下に生き延びた人類達と合流するのだが、その地下都市は独裁者に牛耳られていた。というところでようやく題名の意味がわかるようになるのだが、宇宙船で脱出するためにはこの圧制者を倒す必要があり、主人公達は圧制に苦しむ人たちと協力して武力蜂起をする。とここまではよくあるパターンの冒険活劇のように見える。僕だってそれ以上のものは求めていなかった。
しかし、残りわずか20ページというところで内部の裏切りによって主人公は圧制者に捉えられてしまう。
アレステア・レナルズだったら残り300ページくらいはないと決着はつけることが出来そうもない展開だ。しかしさすがはK・H・シェールだ。
残り20ページで基本設定の謎の攻撃や放射能まみれの謎、そして圧制者の必要な理由までを解き明かし、単純明快なハッピーエンドではなく皮肉的かつ、ずしりと心に突き刺さるような結末を付けるのだ。
まったくもって素晴らしい。

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