- 著 小泉 喜美子
- 販売元/出版社 集英社
- 発売日 1978-01
福島正実が僕にとってのSFの父であり、SFの母はジュディス・メリルなのだが、ミステリの場合はどうなんだろうと考えてみたのだが、ミステリの父は該当する人が多すぎて一人に絞ることが出来ない。
逆にミステリの母はというと一人しか思いつかない。
小泉喜美子である。
密室殺人だとか不可能犯罪だとか前人未踏のトリックだとかにしか目がいっていなかった自分に、ミステリの本当の面白さと楽しみ方を教えてくれたのが小泉喜美子だ。そして彼女のおかげでクレイグ・ライスを知ることができたのである。
しかし、それ故に、ライス=小泉喜美子という思い入れが強くなってしまい、小泉喜美子の小説の方は読まず嫌いになってしまったのである。
そもそも『弁護側の証人』という題名からしてクリスティだし、あらすじを見る限りではライスっぽい話ではない。
そんなわけだから、まあそのうち読んでみようかという程度の気持ちでいるうちに彼女の本はどんどんと絶版になってしまい、読みたくても読めない状態になってしまった。
で、まあいつまで待っていても仕方がないので探し出して読んでみたところ、ああ、もっと早く読んでいればよかったと後悔したのである。
それは別に、作品が古びてしまったというわけではない。まあ昭和の時代の薫りはするけれどもそれはそれで熟成された薫りであるから特に問題ではない。
作中に仕掛けられたトリックは、多少のぎこちなさはあるけれども、それ以上に素晴らしいのは洒落たミステリであることだ。
ライスのようなユーモアはないけれども、ここには小泉喜美子が愛したミステリがあったのだ。
そして……
今年になって立て続けにSF関係者の訃報が続いていたのだが、いくらなんでも今月は何もないだろうと思っていたらSF方面ではなくミステリ方面で訃報。
ジェイムズ・クラムリーが亡くなるとは……。
『さらば甘き口づけ』を読み返したくなった。
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