- 著 結城 昌治
- 販売元/出版社 東京創元社
- 発売日 2008-06
刑事で、そして主人公でありながらも事件の真相を見抜くまでには至らないという、ひねった設定が面白い。もっとも、初期の段階で前衛芸術家兼探偵という人物が登場するので、彼が探偵役なのだろうということは想像がつくのだけれども、探偵役と思わせて実は犯人という可能性もあるので予断は許さないわけだが……。
風俗描写はさすがに時代を感じさせるのだが、だからといって物語全体が古びているというわけではない。そしてユーモア物でありながらもそのユーモアは泥臭くなく、過剰すぎもせず、上品というか節度あるレベルにとどめているあたりが、個人的には若干物足りないと感じる部分もあるのだが、まあ行きすぎるとユーモアではなくギャグになってしまうだろうから、このあたりが丁度いいのかも知れない。
派手なトリックこそないけれども、論理でうならせる手腕はさすがというか、素晴らしいし、意外な犯人も用意されている。
いろいろと欲張った上でそれらをそつなくまとめ上げたという点は見事なのだが、何か一つ抜きんでた物が無いというところが埋もれたままになっていた理由の一つなのだろう。
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