『檻の中の人間』ジョン・ホルブルック・ヴァンス

檻の中の人間 (1962年) (世界ミステリシリーズ)

  •  ジョン・H・ヴァンス
  • 販売元/出版社 早川書房
  • 発売日 1962

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ジャック・ヴァンスによるジョン・ホルブルック・ヴァンス名義の非SF作品。
作者が誰なのか知らない状態で読んだとしたら、ヴァンスの作品だとわかったかどうかといえば、悔しいけれども多分わからなかっただろう。
だからといってつまらない話なのかといえばそんなわけはなく、モロッコが舞台なので異国風味はあるし、ヒロインの造形などはいかにもヴァンスだというようなひねり方をしてある。おまけに行方不明となった弟を捜すというミステリ要素だってあるわけで、こうしてヴァンスらしさを挙げいくと、これがヴァンスの作品だと気が付かない方がおかしいような気にもなってくるのだが、やはりSF作家としてのイメージが強すぎるせいだろう。
私にとって、やはりヴァンスは奇妙な世界を描いてこそヴァンスなのだ。
面白かったのは解説で、ここではジョン・ホルブルック・ヴァンスは謎の作家ということになっているのだ。それもそのはずで、この作品でアメリカ推理作家クラブ新人長編賞受賞を取っておきながらヴァンスは、それ以降の二年間この名義で作品を発表していないのである。
そして、アントニー・バウチャーがジョン・ホルブルック・ヴァンスの正体がヴァンスだということを暴露していたということで、ジョン・ホルブルック・ヴァンス=ジャック・ヴァンスだと結びつけているのだが、面白いのはここからだ。
ジャック・ヴァンスはヘンリー・カットナーの別名義であり、ヘンリー・カットナーは1958年に亡くなっているので、ヴァンスが1960年にこの作品を書くことは出来なかったわけだから、これはいったいどういうことなのだろうか。という形で終わっている。
今でこそヴァンスとカットナーは別人だとわかっているのだが、まだこの当時はヴァンスはカットナーの別名義の一つだと信じられていたのである。
ヴァンス=カットナー説は話には聞いていたけれども、こうして実際の文章として読むとなかなか感慨深いものがある。

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