- 著 コーマック・マッカーシー
- 販売元/出版社 早川書房
- 発売日 2008-06-17
まったくもってコーマック・マッカーシーは卑怯だ。
卑怯すぎる設定、卑怯すぎるプロット、そして卑怯すぎる文体でもって、自分の息子に対するありったけの想いやら愛情やらという妄執を注ぎ込んで、あざといまでの小説を書きやがった。
そのおかげで80ページくらいまで読んで、もうその先を読むのが辛くなってしまったのだが、まだこの先、いままで読んできた二倍以上のページ数が残っているのを考えたらさらに絶望的な気分になってしまった。この物語が80ページくらいの短編だったらどれだけよかったのかとしみじみ思ってしまうくらい読むのが苦しかったのである。まるで、どっちが先に心が折れるのか根比べをさせられているかのような話だ。
人間の知性と理性とそして科学技術に対する信頼を持ち続けている身としては、必ずしもマッカーシーの描く世界を肯定することは出来ないのだが、ちょっと気を抜くと、人間の知性と理性を信頼し続けることが甘い考えなのかも知れないと思わせられそうになってしまうわけで、これはこれで困ったものだ。
しかし、解説にも書かれているように最後は見事なまでに『子連れ狼』。そりゃそうだろうなあ、息子に対する想いと妄執を断ち切るためにはこういう結末にするしかないよなあ。
父親として何ができるのかが問題であって、世界が滅ぶとか人類が滅亡するとかといった事柄はたいした問題ではないのだ。
コメント
『ザ・ロード』 コーマック・マッカーシー
アンセム・キーファーの灰色の大きなインスタレーションが頭に浮かぶピュリッツァー賞受賞作はコーマック・マッカーシーの短編とも呼べる無駄を極力そぎ落とした、ある意味ヘミングウェイな近未来フィクション。『ザ・ロード』はページが進むと同時に家族愛が広がっていく作品でした。 焼け野原となった世紀末の地球が舞台で、大気は汚れ太陽は見えず雪が舞う道を名もない親子が殺戮と強奪が続く中進んで行きます。 生き物は人を獲物にする悪人しかおらず、食事もままならない環境で父親はひたすら息子を守ることを第一に歩みます。 もしもの時に餌食にならないよう自殺する方法を教えている事がわかる場面ではこちらの胸が痛くなります…