- 著 シオドア・スタージョン
- 販売元/出版社 東京創元新社
- 発売日 1965
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スタージョンブームもそろそろ一段落したのではないかと思うのだが、そもそもブームといえるだけのものだったのかといえば、そうでもなかったような気もする。値段の高い四六版で出たために、たまたま発行部数に見合うだけの需要があっただけで、これが文庫本だったらどうだっただろうか。
そんなことを考えるとサンリオで出た『コスミック・レイプ』や東京創元社の『原子力潜水艦シービュー号』などは復刊しそうもない気がしてくる。
もっとも、『コスミック・レイプ』は分量的には中編レベルなので、ディレーニの序文は思い切って捨てて、他の未訳の短編と抱き合わせで短編集として出る可能性もあるけど、『原子力潜水艦シービュー号』はちょっときついかな。「深海の宇宙怪獣」と抱き合わせで一冊の本として出すという方法もないこともないけど……。
大富豪のネルソン提督が私財と世界中の子供たちからの寄付金とで作り上げた原子力潜水艦シービュー号で北極海の調査に向かうところから物語は始まる。世界中の子供たちからの寄付金というところが何ともいえないんだけれども、それ以上に、冒頭から既にスタージョンらしさが満ちあふれているところが凄い。冒険アドベンチャーであるのに主人公自身が内省的で、何事にも優秀な成績を残していることに優越感を持っていながらそのうぬぼれに天罰が食らうのではないかと心配し続けているのである。
物語の初っぱなからいきなり主人公の内省的な描写から始まるという素敵な展開からスタージョンの暴走は徐々に加速していく。北極海に到着すると、そこでは氷が解け初めていて、空には火の帯が出現し、北極でありながら熱帯地方なみの温度と化していた。
一連の調査の結果、バンアレン帯に異常が発生し、レンズ効果によって地球の温度が上昇し始めているということがわかるのだけれども、我らが主人公たちの乗り物は最新鋭とはいえども潜水艦である。空の上空、遙かかなたのバンアレン帯に発生した異常にどう立ち向かえというのであろうか。
しかし、そこは抜かりのないスタージョン。バンアレン帯に異常が発生したのであれば特殊なミサイルを撃ち込んで一時的にバンアレン帯を壊してしまえば大丈夫だという豪快な解決策を提案する。
そんなわけだから世界有数の物理学者に、こんな現象は一時的なのもだからほっとけば元通りになるし、ミサイルを撃ち込めばかえって逆に地球は壊滅状態になると言って反論されることとなる。しかしそこまでで既に紙面の半分を費やしてしまっている。最近のSFは無駄に長く展開が遅いと言っていたりするんだけれども、昔のSFもけっこう展開が遅かったりもする。
しかし、前半の展開の遅さを取り戻そうとしたのかどうなのかはわからないけれども、後半は怒濤の展開となる。
ミサイル発射地点へと向かうシービュー号の中では乗組員達による叛乱の兆しがあったり、殺人事件が起こったり、何者かによる破壊活動があったり、北極海で助けた遭難者は終末思想の持ち主で、主人公は終末思想におぼれかかったりと、非常に密度の濃い展開をするのだ。
しかし、だからといって面白いのかといえば必ずしもそうではないところが、復刊されない理由の一つかも知れないなあ。
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