- 著 結城 昌治
- 販売元/出版社 中央公論新社
- 発売日 2008-03-23
今回は嘘と真実をおりまぜて書く。
その昔、『バーニングポイント』というパソコンゲームがあった。
ゲームそのものの出来もよかったのだが、なによりも一番に印象に残っているのは、ゲームが立ち上がった後で画面に浮かび上がる一文だ。
人生というのは、いつまでもつづく勉強だよ。卒業もできないし、学位もとれない。だから、せいぜい努力して、退学にならないようにすることだ。
ロス・マクドナルドの『ウィチャリー家の女』は、さすがに名前ぐらいは知っていたけれども、興味が持てなかったので読んでいなかったのだが、ゲームを解き終えてから書店へと向かってしまった。そのくらいにこの文章にはしびれたのである。
あまりに気に入ってしまったので、いつか機会があったらこのセリフを誰かに言ってやろうと思い続けて数十年。いまだにその機会は訪れていない。
よく考えてみればそれもそのはず、人生について悩みを抱えている人間が、私のような社会というレールから足を踏み外したような人間に相談を持ちかけに来ることなどありえないのである。
まあそれはともかく、結城昌治は『ウィチャリー家の女』に対する不満から『暗い落日』を書いたのだが、前述の一文に惚れ込んだ私は『ウィチャリー家の女』に対して不満などあるはずもなく、したがって『暗い落日』を読むこともなく過ごしてきた。
で、いつものごとく気がつけば絶版で、読みたくても読むことが出来ない状態になっていたのである。よくあることなので嘆いていても仕方がないのだが、幸運なことに今回めでたく復刊したので読んでみることにした。
読み終えてみれば確かにこれは結城昌治版『ウィチャリー家の女』で、この物語単体で見れば不満は別にない。
若干、中途半端に古びているので書かれた時代背景を意識しておかないと違和感を感じてしまう部分があるのは仕方ないところだ。
しかし、『ウィチャリー家の女』と比べてみれば、『ウィチャリー家の女』のあのセリフに匹敵するセリフが無かったのがただ一つの残念だった。
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暗い落日
暗い落日 (中公文庫)/結城 昌治
富豪の磯村邸を訪ねた私立探偵の真木は、庭先の海棠の花にも似て、優しく愁いをおびた女主人律子と会った。
依頼は、19歳になる美しい令嬢乃里子の行方を捜すことだった。謎の失踪事件を発端に、バーの女、令嬢のボーイフレンド