ハヤカワ文庫JAというレーベルから白河三兎の新作が出ると知った時にまず思ったのが、SF寄りの話になるのか、それともミステリ寄りの話になるのかどちらなのだろうかということだった。
基本的にはミステリ系の話を書く白河三兎なのだが、その物語の設定において、時として現実ばなれした少し不思議な設定を用いることがあるからだ。
題名の中に神様という言葉が使われていることから少し不思議な要素が入っていそうな感じはしたのだが、あらすじを見る限りではそんな要素はなさそうな感じだった。
そもそも中学のサッカーの試合、0-2でのPK戦の途中から物語が始まり、その勝敗の行方がどうなるのかという展開のようだ。しかし、題名が『神様は勝たせない』となると結果が見えている。うーん、ここから白河三兎がどんな世界をみせてくれるのだろうかさっぱり予想もつかなかないなと思っていたら、『神様は勝たせない』という言葉の意味を間違って捉えていたことが物語が始まってすぐにわかった。そういう意味だったのか。
六人の視点から、PK戦の様子が描かれ、と同時にその試合に至るまでのこのチームの様子が描かれる。PK戦というほんの僅かな時間を六人の視点で描くという点では芥川龍之介の「藪の中」のように視点人物が変わるたびに描かれていた事柄の意味が変化していくのかとも思ったりもしたのだがさすがにそんなことはなく、逆に「藪の中」の曖昧とした事柄が徐々に明らかになっていく。そういう点ではまごうことなきミステリであり、なんだかよくわからないけれども爽やかな読後感を残すといういつもの白河三兎の物語でもあった。
コメント