スターシップと俳句

スターシップと俳句 (ハヤカワ文庫 SF (580))

  •  冬川 亘
  •  ソムトウ・スチャリトクル
  • 販売元/出版社 早川書房
  • 発売日 1984-10

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いい加減な知識を元にして日本を舞台とした話を書いたために結果として不思議な国ニッポンとなってしまった海外の小説は数々あるけれども、中には、正確な知識を持っていながらもわざと曲解して不思議な国ニッポンを書く作家もいる。イアン・ワトソンの「銀座の恋の物語」なんかがそうで、いい加減な知識で書いてしまうよりもかえってたちが悪かったりする。
もっとも、たちが悪いのは外国人作家だけではなく、日本人作家の中にだって筒井康隆や都筑道夫や小林信彦や山口雅也や海猫沢めろんとかいちいち挙げていたらきりがないほどいる。
そういった中でこの本は、「曲解されたニッポン物」の最北に位置するんじゃないだろうか。
千年期戦争で米ソは壊滅、日本は奇跡的に助かったという設定の時点で既に何か邪悪な作為を感じさせるのだが、まあとにかく全編、恥と潔い死の概念のオンパレード。潔い死ってのが結局は切腹なんだけど、ここまでくるとある種の美意識さえ感じさせる。
クジラが自分たちの祖先だったということを知り、祖先殺しに恥じて集団自殺をするのだが、その死に方が素晴らしい。富士山の映像を背景にシコクというテーマパークを作って自殺するように洗脳する芝居を見せられ次々と死んでいくのである。
異形の未来世界でありながらその世界がどのような世界なのかという具体的な描写はほとんど無く、あったとしても喫茶店で六百万円の珈琲を飲んで一千万円札で支払ったなどといったぶっ飛んだ描写だったりするのだが、そんな描写もゆがんだ日本人の精神の前には些細な出来事でしかない。
作者によってゆがめられた日本人の感性は全てのページに無駄なく敷き詰められており、その内容につっこみを入れようとする気力さえ失われさせてしまうほどだ。

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