- 著 ジェフリー フォード
田中一江 - 販売元/出版社 ランダムハウス講談社
- 発売日 2008-03-01
はたして描く相手の顔を見ずして、声と相手の語る物語からイメージだけで肖像画を描くことができるのだろうか。
『白い果実』では観相学なるものを担ぎ出していたり、「アイスクリームの帝国」では共感覚を題材にしていたりするので、作者自身はそれほど突拍子もないことではないと思っているのかも知れない。
まあそのあたりはともかくとして、シャルビューク夫人の語る物語は面白い。結晶言語学なる怪しげな学問から始まり、はたしてこの物語はどんな場所に着地するのかドキドキしながら読みふけったのである。
問題は、途中まではどのような物語を期待していたとしても、テンポのよい短い章立ても合い重なって楽しめるのだが、終盤になって物語は曖昧さを捨て、一方向へと傾いていってしまうことだ。
無論全ての期待するところを満足させる物語を作者に期待するのはあまりにも無茶であることは承知の上なのだが、全ての謎が実に気持ちよく合理的に解けてしまうあたりが、もう少し曖昧なままでもよかったんじゃないかと思わせてしまう。
ああ、読者というのは我が儘な存在である。
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