300:1

300:1 (1960年)

  •  J・T・マッキントッシュ一ノ瀬 直二
  • 販売元/出版社 早川書房
  • 発売日 1960

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私の場合は<ハヤカワSFシリーズ>に間に合わなかった年代なので、<ハヤカワSFシリーズ>のラインナップが文庫化されるのを待ち望んでいた側なのだが、100冊あまりの作品が未だに文庫化されないままでいる。
1995年に50周年記念事業として、
『ドノヴァンの脳髄』カート・シオドマク
『超生命ヴァイトン』エリック・フランク・ラッセル
『ラルフ124C41+』ヒューゴー・ガーンズバッグ
『影が行く』ジョン・W・キャンベル・ジュニア
の四冊が何の前触れもなく復刊したことがあったけれども、あくまで<ハヤカワSFシリーズ>としてである。
そんなわけだからこの本も長いこと読むことが出来ないでいたのだ。
長編の翻訳はこれ一作だけ、短編も申し訳程度に訳されただけなので、作者の名前もそれほど知れ渡っているいるわけではない。しかしこの本は、知らない人は知らないだろうけど、知っている人にとっては古典的名著といっても過言ではないだろう……というのはさすがに言い過ぎか。
人類滅亡の危機が訪れ、助かるのは約300人に一人という確率。それがこの本の題名の由来なのだが、破滅ものが好きな人間にとっては実にワクワクする設定ではないだろうか。
そしてこの本は三部構成になっていて、第一部が「300:1」、第二部が「1000:1」、最後が「∞:1」という題名になっている。先へ進めば進ほど生存確率が下がってくるのである。否が応でも高まる期待感だ。
しかし、読み進めていくと反比例する形でワクワク感がしぼんでいく。というのも途中から、ジョン・ブラナーの『原始惑星への脱出』と同じような展開になっていくからである。最初の「300:1」では主人公は、約3000人の町のなかから10人の人間を選び出すという生殺与奪権を与えられた立場、つまり生存確率からはずれた状態であり、それ故の苦悩という部分が描かれていたのに対して、それ以降は主人公も選ぶ側の立場から落とされ、自分自身も生存確率に身を任せる立場になってしまう。
神のごとき立場だった主人公が徐々にその力を失い、ごく普通の人間になってしまうという展開そのものが作者の狙い目だったのかも知れないが、やはり物語として失速したと見た方がいいのだろう。
読み終えてみると文庫化されなかった理由もわからないでもない。というか今となっては賞味期限の切れた古典扱いというのが妥当なところかな。

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