名短篇、ここにあり

名短篇、ここにあり (ちくま文庫 き 24-1)

  •  北村 薫、宮部 みゆき
  • 販売元/出版社 筑摩書房
  • 発売日 2008-01-09

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食べず嫌いってのは損なんだよなあとつくづく実感してしまった。
半村良や小松左京はSF系なので読んではいるが、ミステリ系の多岐川恭や戸板康二や松本清張あたりは、食わず嫌いでほとんど読んでいない。
とくに松本清張なんかは謎解きミステリとしても凄いのは知っていながらも、「社会派」という印象がこびりついてしまっているので毛嫌いしていた面もあったんだけど、松本清張の「誤訳」を読んで目から鱗が落ちる思いをした。やっぱり凄い。
それ以外の作家となると名のみ知っている程度だったので、吉行淳之介の「あしたの夕刊」のオチの付け方を見て驚いたのなんの。短編の締め切りが今日なのに、どうしても書くことの出来ない作家の家に届いた夕刊がなんと未来の夕刊で、そこには今日書いて渡すはずの小説が掲載されていた。ここで普通ならば掲載された小説を丸写しして編集者に渡すという展開になるのだが、この主人公はこう考える。
ここで自分がどうしようが未来は決定済みなのではないだろうか。未来の新聞に掲載されているって事は、この小説を丸写ししなくったって小説はできあがるってことだ。
そして主人公は何もしないのである。
なんなんだ、この因果律に挑戦する物語は。
一方、黒井千次の「冷たい仕事」は冷蔵庫の中で巨大に成長した霜を取るというだけの話なのだが、巨大な霜をうまく取る事が出来た時のあの何ともいえない高揚感を味わうことが出来る。
しかし一番凄かったのは吉村昭の「少女架刑」。
一人の少女が亡くなった時から話が始まり、母親に献体として病院に売られ、あちらこちらを標本として切り取られ、さらに実習材料としてあちらこちらを切り刻まれ、そしてほとんど骨だけの状態になったとき、始めて火葬され骨壺に入れられるのだが、そこまでの話が全て亡くなった少女の視点で語られるのである。吉村昭がこんな話を書いていたとは。

コメント

  1. 読書の緋 02272008

     小説を読むとホッとした気分にひたれる。あわただしい日常からいったん切り離され、それがフィクションだとしても、自分とはちがう生活、生き方の拡がりに身をおくことができる。リアリティが満喫できる小説も良いし、反対に夢物語、メルヘンタッチも捨てがたいものを感じる。
     どちらかというと既存作家よりは新人の本を手にすることが多い。この10年ほどの直木賞作家、山本周五郎賞作家はまずは当たり外れがないと思っている。江戸川乱歩賞受賞作もわるくはない。ただ、このところ芥川賞の最新作はパスようになった。

  2. 本の名品 03242008

     NHKの今年の大河ドラマは、宮尾登美子原作の『篤姫』、宮崎あおい主演で、愉しまれている方も多いのではないか。徳川13代将軍・家定の御台所になり、その幕末期を舞台にした波乱万丈の生涯を描く物語である。後世にも知られているさまざまな登場人物、歴史的な事件もあり、その時代考証は手堅くなされるのにちがいない。
     その時代を大正期に当時の「読売新聞」で語りつないだひと、三田村鳶魚(えんぎょ)著・朝倉治彦編『芝・上野と銀座 鳶魚江戸文庫34』(中公文庫)が偶然、手に入り読んでみた。明治初年の生まれ…

  3. つき指 より:

     「つき指の読書日記」は下記の方へ移設しました。今後ともよろしくお願い申し上げます。
       http://plaza.rakuten.co.jp/tukiyubi1

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