『ルーティーン 篠田節子SF短篇ベスト』篠田節子

  • ルーティーン: 篠田節子SF短篇ベスト
  • 訳: 牧 眞司
  • 著: 篠田 節子
  • 販売元/出版社: 早川書房
  • 発売日: 2013/12/6

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SF短編ベストと題されているけれども、どちらかといえば広義のSFであって、SFらしい設定の話は乏しく、それ故に『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』にくらべるとバラエティに富んだ作品集になっている。
さらにはシリアスな話もあればドタバタな話もあり更には不条理な物語もあって、篠田節子の作品のショーケースといってもいいかもしれない。
気に入ったのは「コヨーテは月に落ちる」で、トマス・M・ディッシュの「降りる」とか筒井康隆の不条理系の短編に通じるような展開をしていきながらも、そこにコヨーテという幻想的な存在を登場させさらには結末で一気にこの不条理と幻想を現実の世界へと持って行ってしまう力技は一瞬、何が起こったのか混乱してしまったけれども、スタージョンの「海を失った男」の篠田節子バージョンといってもいいのかもしれない。
ホラー寄りの話でもある「ソリスト」での真相も面白かったけれど、読んでいて辛かったのは「人格再編」だ。
老人介護という問題、というか老人介護における問題点のひとつである人格の崩壊を人為的に制御して当事者とその家族の心の平穏を目指すという展開は、一見すると素晴らしい技術のようにも思えるのだが、制御された人格は本人なのか、それとも本人ではないのか、という哲学的な問題に向かっていく。ドタバタ喜劇的な展開をしていくのが救いかな。

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