夏の涯ての島

夏の涯ての島 (プラチナ・ファンタジイ)

  •  イアン・R・マクラウド浅倉 久志
  • 販売元/出版社 早川書房
  • 発売日 2008-01-09

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『90年代SF傑作選』に収録された「わが家のサッカーボール」を読んだとき、変な話だなあと思ったのだが、あらためてイアン・R・マクラウドの短編をまとめて読んでみるとSFとしては変な話が多い。
おもしろさがSFとしての設定に依存していないというか、一見するとSF的な設定など必要としないのではないかと思ってしまうほど設定と主題が融合しきっている。まあSFでなくても書けそうな話もあるんだけれどもね。
センス・オブ・ワンダーこそないけれども、かみしめればかみしめるほど味が出る話ばかりで、「ドレイクの方程式に新しい光を」なんかはしみじみと胸を打つ切ない話で、ちょっとジャック・マクデヴィット「標準ローソク」を彷彿させる感じでもあったけど、川端裕人の『せちやん 星を聴く人』に置き換えも可能かな。
異星人からのメッセージを探し続けた主人公の元に最後に届いたメッセージが個人レベルのものか個人レベルでは計りきれないものだったのかの違いでもある。私はどちらも好きだ。
ジョーン・D・ヴィンジの「錫の兵隊」っぽい話になるのかなと思っていたらそんな話にならなかった「チョップ・ガール」も切ない話なんだけど、ちょっとだけ救いのある結末で後味が悪くないのが実にいい。
邦題が素晴らしい「夏の涯ての島」は歴史改変モノなんだけど、これもまた切ない話で主人公が戦死した恋人フランシスの実家に訪れるシーンなんかは映画『ブロークバック・マウンテン』を思い出してしまった。
辛くて切ない話が大半。けれどもそれを乗り越えようと一歩踏み出したところまでが描かれているので読んでいて救いがあるのだ。

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