- 著 波多野 鷹
- 販売元/出版社 早川書房
- 発売日 1991-11
Amazon
そもそも「ハヤカワ文庫ハィ!ブックス」などというレーベルから出たのが不運だったのかも知れないが、まあ出した時点で「ハィ!ブックス」が鳴かず飛ばずで無惨にも消滅してしまうなどとは思わなかっただろうから仕方なかったとはいえ、素直に「ハヤカワ文庫JA」から出ていたならばもう少し救いもあったかも知れない。
しかしそれ以上に、作者自身がフィクションを書くのを止めてしまったことの方が大きいのかもしれない。奥さんの久美沙織の方は書き続けているのに。
それにしてもまあ後味の悪い話だった。後味が悪いことは承知していたのだけれども、全体を流れる雰囲気からして暗いのである。政界の黒幕に飼われる少女を助けようとして無惨にも殺される青年の話では、少女は一時は逃げようとするが青年の死を見た後、逃げるのを止め自ら黒幕の元の場所へと戻っていってしまう。身も蓋もないというか、絶望とかあきらめとかそんなものを通り越している世界である。食料としてクローン培養された少女の話に関しても同じ事が言える。彼女は自分が食料となることを知っていながら、それを喜びとして感じているのだ。汚職と腐敗の社会、彼女を助けようと潜入した警官はもちろん上司が組織と繋がっていたために組織に捕らえられ、残りの人生を日の当たらない地下で過ごすこととなる。ペットとしてだ。
無情で、悲惨なわりには作者が登場人物を完全に突き放しているためにわりとカラッとしているところがせめてもの救いだ。
コメント