『雪の練習生』多和田葉子

  • 雪の練習生
  • 著: 多和田 葉子
  • 販売元/出版社: 新潮社
  • 発売日: 2013/11/28

Amazon


今まで多和田葉子には注意を払っていなかったのだが、こんな騙りのテクニックを使った話を書く人だとは思わなかったので、驚いてしまった。
そもそもこの本を手にとったのは、親子三代に渡るのホッキョクグマの話で、なおかつ最初の話の語り手はクマでありながらも人間の言葉を理解しそして人間と会話をし、それでいてホッキョクグマとして生きていて自伝を書き始めるというファンタジーめいた話だったからで、これが三代目のクヌートというホッキョクグマだけの話だったとしたら手にとっても読みまではしなかっただろう。ちなみにこのクヌートはドイツで一時期有名になったあのクヌートである。
最初の話はクヌートの祖母にあたるクマの話で、彼女はロシアで生まれ育ち、そして自伝を書き始めるのだがそれがロシア政府の反感を買い、ドイツへと亡命する。クマでありながらも思考の形態は人間的なのでクマとしての本能的な部分と人間的な思考の部分とのギャップが面白さを醸し出しているのだが、そんな部分に気を取られていると最後で背負投げを食らわされる。自伝を執筆している様子が描かれているのかとおもいきや、実はそうではなかったのだ。
第二部では第一部の彼女の娘、トスカが主人公なのだが、語り手はトスカとサーカスでペアを組むこととなる人間の女性であり、物語の視点も彼女である。が、これまた終盤で視点の転換が起こりそれまで自分が見ていた立ち位置が見事にひっくり返されてしまう。
第三部になるとさすがに騙りのネタも尽きたかのように見えながらも、そんなことはなく、この第三部の三人称の物語りが実は一人称の物語であったという事実をつきつけられて唖然としてしまうのだ。
さすがの他の物語もこんな騙りの物語ばかりだとは思えないのだが、気になる作家がまたひとり増えてしまった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました