『ラタキアの魔女 笠辺哲短編集』笠辺哲

  • ラタキアの魔女 笠辺哲短編集
  • 著: 笠辺 哲
  • 販売元/出版社: 集英社
  • 発売日: 2013/11/1

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ぱっと見、特筆するほど絵柄が凄いというわけでもなく、自分のアンテナに引っかかる傾向の絵でもなかったのでまったく見向きもしなかったのだが、やっぱり面白い漫画を読もうと思ったらそんなことじゃあ駄目なんだなあということをまず実感させられた。もっともそれは単純に僕の、面白い漫画を見抜く目がなかっただけでもあるのだが。
あまりパッとしない絵柄でありながらも読み込んでみるとこれがなかなかどうして悪くない。味のある絵でありそこはかとなく色気もある。もちろん良いのは絵だけではなく内容のほうだ。
騙されてみてもいいかなという気持ちで買ったこの本だけれども、冒頭の「ボーヤのクリスマス」を読んで打ちのめされた。
サンタクロースの話なのだが、主人公はそのサンタクロースをお手伝いする少年。そして物語はクリスマスが近づいてきてそろそろクリスマスプレゼントの準備をしなければいけないというところから始まるのだが、サンタクロースとクリスマスに対する考察の部分が論理的で面白いのだ。まず、サンタクロース自身は一人であるということ、そしてサンタクロースは鍵のかかった部屋に入ること、空飛ぶトナカイに繋がれたソリに乗ることができるということ以外は特殊能力を持っていないという設定になっている。ではそれ以外は普通の人間とかわりのないサンタクロースが世界中の子どもたちに一夜のうちにプレゼントを配り終えることができるのかという問題が発生するのだが、作者が用意した解答がこれまたふるっている。たしかにこれだったら配り終えることができそうなのだ。
続く「トラベルライター」にも笑ってしまったのだが、その後に来る「TUDM」では人間とロボットとの友情がしんみりとさせられる一方で、自我をもったロボットの本能のようなものがさりげなく終盤に物語として浮かび上がり、そのSF的な要素に不意打ちを食らってしまう。
表題作は不老不死と噂される女性と生活を共にすることになった少年の物語で、彼女は噂通りの不老不死で、少年だけが年をとっていく。しかし、いつまでも若いままの彼女と一方的に年をとっていく主人公の間の愛情の物語のように見えながらも、終盤で明かされる不老不死の真実の姿がこれまた意外というか、この物語にそんな設定を入れ込んでくるのかと感心するやらびっくりするやらで、九井諒子と同じ系統の漫画家がまたひとり見つかった。

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