天久聖一というと漫画家だとばかり思っていて、なおかつ彼の描く漫画にはあまり興味がなかったのだが、いつのまにか小説を書くようになっていて、漫画の方は絵柄があまり好きではなかったために読まなかったという理由が大きかったので、だったら活字の方は平気なので読んでみようかという気になった。
で、『ノベライズ・テレビジョン』である。
ここで天久聖一がやってのけたのは、テレビジョンの小説化だ。テレビドラマだけではなく、テレビ番組、CM、テレビの中で放送されている様々なものをノベライズしている。
もちろん、テレビの中で放送されている通りの形で描かれているのではなく、天久聖一というフィルター越しに描かれた世界なのだが、ひょっとしたらここで描かれているのはテレビの向こう側、テレビ越しには見えない部分そのものなんじゃないかと思わせるだけの説得力がある。第一話は『笑っていいとも!』のノベライズで、テレフォンショッキングのコーナーにおけるタモリの主観的な世界を描いている。そしてひょっとしたらタモリはテレフォンショッキングのコーナーをやりながらこんなふうに考えているんじゃないかと思ってしまうのだ。その一方で、『アリさんマークの引越社』のノベライズは凄まじく、あの、どうしてこんなに大きくなってしまったのというCMのノベライズなのだが、この話の中で赤井英和は文字通り巨大化してしまう。そして「真面目にやってきたからよね?」というセリフに対して、真面目な人間がこんな理不尽な目に遭わなくてはならないのだろうかと怒りを覚えるのだ。
終盤は『笑点』をノベライズするとして『笑点』のメンバーひとりひとりに焦点をあてて怒涛のノベライズ連作となっていて、それぞれのメンバーに対する意外なキャラクター設定が行われていて、これまた真実の『笑点』はこれなんじゃないかと思ってしまうのだ。
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