- 著 島田 虎之介/
- 販売元/出版社 青林工藝舎
- 発売日 2007-07
二年越しの連載が終わってようやく一冊にまとまりました。島田虎之助の作品ってまとまった形で読んだ方がはるかに楽しめるので、連載中は読むのをずっと我慢……我慢した甲斐がありましたよ。
今回は前二作と比べると意外と単純な構成で、前作に登場した人物がまた登場したりして、『ラスト・ワルツ』や『東京命日』のような目眩がしそうなくらいの複雑な物語を期待していると拍子抜けしてしまう。
とはいっても、「ヴァルファールト」と呼ばれたピアノにまつわる物語を中心にして、それに関わる人々の物語はそこまで盛り込むのかと言いたくなるほど過剰なまでに濃厚で、素晴らしい。ピアノの原材料となった木にかけられた呪詛。その呪詛は今でも有効で、その為にドイツは二度の戦争で負けてしまった。呪詛はドイツという国に争いと敗北を与えるのである。一方で、傷だらけになったそのピアノを修復しようとする人々の物語が平行して進んでいく。
修復を試みる人々にもそれぞれの物語があり、そしてそれらが最後、一点に収束していくのだが、見事なまでに何も起こらないのである。呪いは解けたのだろうか、いやおそらくは解けたのだろうし、ピアノの修復を依頼した人物も少しだけ願いがかなったし、この物語に関わった人物は皆、多分少しだけ幸せを感じることが出来たのであろう。
しかし、それさえもどうでも良くなってしまうのである。修復されたピアノの鍵盤がたたかれた瞬間、その瞬間に全ての物語が交差して、そしてまたバラバラになっていくのである。その一点を見せつけられただけでもう満足なのだ。
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