スペースプローブ (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) 機本 伸司 早川書房 2007-07 |
物語の前半、半分以上がカラオケボックスでのディスカッションという前代未聞のSF。
幸運指数なんて物が登場したときには思わずにんまりしてしまったのだが、ラリイ・ニーブン以外にこんな物を持ち出す人がいたとは思わなかったよ。それとも私が知らないだけでわりとポピュラーな物なのか幸運指数って。作者に幸運指数なんてものを持ち出されてしまったら、如何にご都合主義的な展開をしたとしても、はいそうですかと受け止めるしかないのである。
まあそれはともかく、一番の難点は宇宙飛行士としての資質に問題があるんじゃないのかと思える人物がそろいもそろって宇宙飛行士であること。そして一番高い幸運指数の持ち主が宇宙飛行士としての資質以前に、社会人としてどうかと思える人物だったりする点である。この本を楽しむことができるかどうかはこの人物の行動を許すことが出来るかどうかにかかっている。まあこの人物はいないものだとして読むのが一番かも知れない。
そもそも、有人月着陸というミッションを行おうとしているのに、月からさらに12万キロメートルも先にある場所のどこかに何かが存在するらしいと、有人月着陸のミッションを放棄して勝手に探索を行おうとする時点で何かが決定的に間違っている。まあ月着陸よりも浪漫はあるけど、知りたいというだけでそこまで暴走してしまっていいものだろうか。
月面着陸のための機器でもって、あるのかどうかもわからないものを探索するということが果たして可能なのかどうなのか計算してみたくなる。作者もそのあたりは微妙にぼやかして、明確な解答は出していない。まあ、帰還ということを考慮しないカミカゼ特効的な行動をとったために、そういうことであれば可能だったのかもしれないなと思わせられるのであるが、浪漫のためなら死んでもいいのか、お前らと主人公たちには言いたい。帰還を考えなければ成功しないミッションなんて、運良く助かったからよかったものの、作中での時代には宇宙はそれほど恐ろしくない時代となっているのであろうか。いきるか死ぬかのサバイバル状態であってもひたすらディスカッションにふける主人公たちを見ていると、なんだかそんな風にも思えてしまう。
若さ故の暴走と過ちをしたけれども驚異的な幸運指数の持ち主のおかげでなんとかうまくいったのだと考えれば我慢は出来る範囲内である。
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