- 著 日比生 典成/
- 販売元/出版社 メディアワークス
- 発売日 2007-07
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鯨が登場するSFというと真っ先に思い浮かぶのが、ロバート・F・ヤングの『ジョナサンと宇宙くじら』で、その次が大原まり子の『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』。どちらも海ではなく宙を泳いでいる。
この本に登場する鯨は海の中を泳いでいるのだが、その海は空にあるので、作中では実体が本当にそこにあるのかどうなのかは不明だが、一応空を泳いでいるともいえよう。ただし、不思議な設定はそれだけで、オルガの公式で有名なT・J・バスの『神鯨』のような異様な世界ではないし、日本が舞台だからといってソムトウ・スチャリトクルの『スターシップと俳句』みたいなトチ狂った日本人は一切登場しない。鯨が登場してもただそれだけであって、イアン・ワトスンの『ヨナ・キット』のように鯨が切腹なんて事は起こらないし、ブルース・スターリングの『塵クジラの海』のように麻薬の原材料となるために捕獲される話でもない。ましてやアーサー・C・クラークの『海底牧場』のように食用にしようと試みるなどという展開も起こらない。もちろん宇宙に飛び出すなんて事もないのだから、野尻抱介の『フェイダーリンクの鯨』のようなハードSFにもならない。インベーダが侵略してきて人間は地球から追い出されるわけでもない。
主人公たちの不器用な恋愛と日常の生活が描かれるだけであるのだが、とりあえず鯨が登場して、そしてその鯨が空を泳いでいればそれだけで十分ではないかという気分になってくる。
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