- 著 辻原 登/
- 販売元/出版社 中央公論新社
- 発売日 2007-05
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面白いか面白くないかと言われれば、あまり面白くなかったと答えるしかなくって、諸手をあげて絶賛したくなるような話でもないけれども、かといってつまらない話でもない。
それというのも主人公にあまり共感できなかったというのが一番大きな原因なんだけれども、共感できたら面白かったと問われれば、少し考え込んでしまう。
まあとにかく面白かったか面白くなかったかなどという以前に不思議な文章を読んだという感覚が大きく、大きな声では言えないけれども、小さな声でならば、ちょっと読んでみてごらんよと他人にお勧めしたくもなる。
まず冒頭からして、フェデリコ・フェリーニの『カビリアの夜』のワンシーンが、あたかも『だれのものでもない悲しみ』の話であるかのごとく語られ、カビリアという女性が『だれのものでもない悲しみ』の主人公なのだと思わされてしまう。もっともそれは私が『カビリアの夜』を見たことがないせいであって、見たことのある人はそんなそそっかしい勘違いなどしないのかも知れないけれど。
まあそれはともかく『カビリアの夜』のワンシーンにのめり込んでいると突然『だれのものでもない悲しみ』が顔を出す。そして主人公たちの恋の物語が始まるのだが、これがなかなか一筋縄ではいかない。
何喰わぬ顔をして作者は、偶然と必然とを持って、主人公たち二人の人生をもてあそび、二人の人生を接近させたり離したり、はたまたねじ曲げたりして、そうして最後は二人の行く末を運に任せてしまうのである。
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