- 著 ウィリアム・アイリッシュ/
- 販売元/出版社 早川書房
- 発売日 1976-11
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センスだけで書ききった作品という気もする。同じ年に書かれた『喪服のランデブー』がミステリとしてのひねりはなんにもなく、『黒衣の花嫁』と全く同じプロットを使いながらもウールリッチ独特のサスペンスと哀愁だけで描ききってしまったことを考えると、この時期のウールリッチはミステリを描くことに興味を失っていたようにも思える。
この話も他人に間違えられ、流されるままに別人として生活をさせられてしまった一人の女の話を、ウールリッチ独特の強烈なサスペンスだけで描ききってしまっている。冒頭の数頁だけ読んだだけで既にどのような結末を迎えなくてはいけないのかわかってしまうし、それに向けて一直線だ。そんな話をウールリッチの筆で読まされるということは好きな人間にとっては至福の時間ともいえるのだが、駄目な人にはそれだけの話では苦痛かもしれない。
もちろん、途中で殺人事件が起こるというミステリ的な要素はあるのだけれども、その決着の付け方はあまりうまくいっていないように思える。なにしろ誰が殺したのかわからないまま話の幕が閉じてしまうのだ。おそらく全盛期のウールリッチであればもう少しうまく騙してくれただろうけれども、主人公たちの考え方に粗がありすぎる。もっともそんな主人公たちだからこそこのような結末を迎える羽目になったとも言えるのだけれども。
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