ハスラー

ハスラー

  •  ウォルター・テヴィス/
  • 販売元/出版社 扶桑社
  • 発売日 2007-03

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数年前に「地球に落ちてきた男」が翻訳されたときに、これが初めての翻訳であったことに驚いたんだけれども、今回も驚きましたよ。
この作品、映画化もされたし、続編までも映画化された。そして続編の方は翻訳済みだ。とうの昔に翻訳されていたと思いこんでいたけれども、驚くべき事にこれが初めての翻訳。
原型となった短編は翻訳されてはいたけれども、内容の方は別物といってもいいくらいにかなり違う。
まあしかし、そんなことよりもミネソタ・ファッツとファスト・エディが蘇ったのである。……ちょっと違うか。
ミネソタ・ファッツとファスト・エディといっても映画を見たことのない人にとってはなんのことやらさっぱりわからないかも知れない。
やたらめったらビリヤードのうまいデブとそのデブをうちまかしてやろうとする鼻っ柱の強い若造のことだ。ファスト・エディは経験の違いでミネソタ・ファッツにこてんぱんに打ちのめされるけれども、失意の中で自分に足りなかった物を悟り、そして勝つ。お話はいたってシンプル。
しかしこの本の作者は「地球に落ちてきた男」や、「ふるさと遠く」のウォルター・テヴィスである。そこには例えようのない疎外感と喪失感が横たわっている。ウォルター・テヴィスがいつ頃からアルコール依存症になったのかはわからないけれども、ファスト・エディは最初の勝負を酒で落としてしまう。しかしそれは酔いつぶれて勝負にならなくなってしまったからではない。酒を飲んだのは負ける理由付けのためであり、なおかつ負けるという事柄でさえも、目の前で行われている勝負ではなく、もっと大きな、そして何だかよくわからない何かに負けるためであって、ウォルター・テヴィスはつまるところ自分自身のために小説を書いていたのだとつくづく思うのであった。

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