まさかこの歳になって、いや歳はあまり関係ないけれども笹沢左保の本を買って読むことになるとは思いもよらなかった。
それというのも、筒井康隆が編んだアンソロジー集『異形の白昼』に収録されていた笹沢左保の「老人の予言」が思いのほか面白かったことと、笹沢左保がこのような話を書いていたことを知らなかったということ、そして今回、この本が双葉文庫から復刊されたというタイミングの良さもあったせいだ。
もっともただ単純に笹沢左保の本が復刊しただけならば読もうとは思わなかっただろうけれども、『どんでん返し』というタイトルどおり、全編意外な結末にたどり着くという短篇集、そして度の話も会話だけで話が進むとなれば読まないわけにはいかない。
さすがに、1980年代に書かれた話だけあって、今の時点で読むとどんでん返し具合に新味は感じさせられない面もあるけれど、物足りない気がしたのは最初の数編だけ。といってもどんでん返しっぷりの部分に物足りなさを感じただけで、老夫婦の会話で進む「酒乱」における、表層レベルにおける二人のいい感じの枯れ具合がミステリへと徐々に転換していく様子は会話だけで構成されているから生み出されるサスペンスだ。
「皮肉紳士」はダイイングメッセージを扱った本格ミステリであり、なおかつ、ダイイングメッセージの欠点である不自然さという部分もしっかりとクリアしてタイトルどおり皮肉な結末に着地するあたりはおみそれしましたというしかない。
しかし、一番の傑作は「父子の会話」だ。隠居した父親と弁護士の息子との会話は二人の過去にまつわる話から始まり、そのまま息子が弁護することになった事件の話へと進む。それはあたかも、都筑道夫の「退職刑事」っぽい展開であり、まさか笹沢左保が「退職刑事」を意識して書いたというわけでもなさそうなんだけれども、会話の果てに導き出された唖然とする真相は裏「退職刑事」といってもおかしくはない。
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