さだまさしの『はかぼんさん』を読んだら、半村良の『能登怪異譚』を読み直したくなったのだが、あいにくと手元に本が無い。集英社文庫で出ていたのだが、すでに絶版状態で古書を探すしかないのだが、出版芸術社から出ている『赤い酒場』という本にまるごと収録されていたうえに、この本、電子書籍化されていたのでさっそく読んでみた。
僕は能登弁というものがどんなものなのか知らないので、ここで使われている能登弁がどの程度のものなのかはさっぱりわからないうえに、軽く一読したかぎりでは意味のとれない箇所もあったりもするのだが、文章全体としては朴訥とした雰囲気が漂っていて読みがいがある。噛みしめれば噛みしめるほど味が出るとでも言おうか。そんな方言でもって語られる内容はタイトルどおり、怪異であって、怖い話なのだ。もちろん怖いだけの話もあれば、怖くない、不思議な話もある。しかし、能登弁という方言でもってこういう物語を語ることができるというのは半村良のすごさだろう。
惜しむらくは、集英社文庫にはあった村上豊の挿絵が無いことだ。
さてこの本、第一部が能登怪異譚、第二部が『石の血脈』の原型短編である「赤い酒場を訪れたまえ」が収録された怪奇SF選、第三部が現代怪談集となっていて、収録された短編の大半は怪異を扱った話なのだが、第一部が語りの粋を極めたような話であるのに対して、第三部はいささか分が悪いかと思ったのだが、そんなことはなかった。しかもあの「ボール箱」も収録されていて、お買い得な一冊だった。
コメント